のち》を救ってくれた。お前達二人は俺の良心だ。目的のために手段を択《えら》まなかった俺は罪悪を恐れる余りお前達二人を遠ざけていたことを詫びる。その詫びの印にお前の弟の友次郎へ私たちの財産の半分を残しておく。お前の気性はよくわかっている。両親の墓にこの旨を伝えてくれ。委細は麹町区大手三番の弁護士金井角蔵氏に会って聞け。俺達夫婦はまだ死にたくない。国家のために重大な仕事が残っているから印度へ去る。俺達夫婦が生きている間は日英の外交が破裂する心配はないと思え。外交の事は、お前達のような単純な書生にはわからぬ。気に入らないかも知らないがアダリーをよろしく頼む。まだ無垢の印度貴族の娘だ。そして直ちにQ大に復職せよ。柔道教師の本分を守れ。アダリーの身分の証明書と財産目録はやはり金井弁護士の処に在る』
「そうして……そうして……」
私は真青にふるえながら古木学士の顔を見た。
「そうして……そうして僕の動脈瘤はどうなったのです」
「アハハハ。動脈瘤じゃありませんよ。その写真の通り血管の蜿《うね》りが重なり合ったものに過ぎないのです。珍らしいものですが、よく動脈瘤と間違えて騒がれるシロモノです。貴方の
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