…むろん私も……お話を聞いて感心しました。あなたの勇敢さと大胆さと熱意に打たれて伯父様と伯母様は何とかして救ける道はないかというので、私に治療をお願いになったのです。それで私は、わざと貴方に感付かれないように横浜の天洋ホテルでお眼にかかったのです。あの時に申上げたのは皆私の駄法螺《だぼら》だったのですが……」
「エッ駄法螺《だぼら》。あれはみんな嘘で……」
 私は又暗い気持になりかけたが、古木学士はそうした私の悲哀を吹き飛ばすように笑った。
「ハッハッ、御心配なさらずとまあお聞きなさい。私はその時に伯母様から貴方をこの病院に入れて三日間睡らせておいてくれろ。その間支度を整え印度へ逃げるからという御命令でね。で、その治療の結果を私が御報告申し上げたらお二方《ふたかた》ともスッカリ御安心で……」
「……安心……」
「ハイ……御安心で昨夜《ゆうべ》御出発になった許《ばか》りです。委細はこの手紙に書いておくからという事で……」
 古木学士は白い治療着のポケツから白い横封筒を取出して私に渡した。見忘れもせぬ伯父の筆である。
『前略。俺の過去の罪悪を知っているのはお前一人だ。そのお前が俺の生命《い
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