。
そのうちに背後《うしろ》の扉《ドア》が開《あ》いた音がしたので、ハッとして振向くと、顎紐をかけた警官が二三人ドヤドヤと這入って来た。皆殺気立った形相をしていたが、振返った私の血だらけの右手を見ると、イキナリ二三梃のピストルを突きつけた。
「動くな。貴様だろう。犯人は……」
私は静かに寝台の上に突立った。
「そうです。お手数はかけません」
「死骸はどこに隠した……この家《うち》の主人の死骸を……」
「知りません」
私は内心唖然とした。警官が片附けたのでなければ消え失せるよりほかになくなりようがない筈だ。
「おのれ……白《しら》を切るか」
というなり、先に立った警官が飛びかかって来た。私は咄嗟《とっさ》の間に身を飜して寝台の中へ飛び込んだ。ストンと音がして、身体《からだ》が階段の上に落ちるとすぐに、跳ね起きて階段を駈け降りた。
馳け降りると一つの扉《ドア》にぶつかった。ぶつかるとすぐに押開いて中にはいると、頑丈な閂《かんぬき》が取付けてあるのを発見したので、これ幸いとガッチリ引っかけた。私はやっと落着いて、胸の動悸をしずめて真闇《まっくら》になったトンネルを手捜《てさぐ》りで
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