獣医の家《うち》へ行ってお酒を飲んではいけませぬ。生命にかかわります」
とか何とか……。
ところが日本の田舎ではナカナカそうは行かない。
……毒殺※[#感嘆符三つ、43−8]……という感じが、この報告を聞いた刹那にB署員の頭にピインと来たんだね。そこで早速、内偵を進めてみると、生憎《あいにく》なことに獣医の西木さんは五六年前の開業当時に、斎藤先生から大枚二千何百円の借金をしている。それが一文も這入っていない……という事実が、斎藤さんの後家さんの口から判明した。斎藤の後家さんは、その刑事から聞いた話に非常に憤慨して、大急行で帰って来た息子の医学士を、斎藤さんの霊前に引据えると、刑事の面前で、
「ソンナ悪人の娘は、お前の嫁に貰う訳に行かぬ」
と涙ながらに申渡すという劇的シインが展開してしまった。
ソレッ……というので文句なしに西木獣医が引っぱられる。裁判所から予審判事が急行する。
斎藤さんの死骸は今一度大消毒の上、大学に廻されて解剖の手続きをする。そのゴタゴタの真最中に、馬鹿な話で、斎藤の息子の医学士と西木の娘が、厳重な青年団員の警戒をドウ誤魔化《ごまか》したものか手に手を取
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