たりしておけば解決が早いと思った訳だ。……というと大層立派な御出張のようだが、しかし公式の責任はチットもないんだから、何の事はない一種の弥次馬だろう。フロックコートを着た……。

 西木家を監視していた警官も、青年団員も、名刺を出すと訳なく通してくれたが、狭い穢《きた》ない家だった。四|間《ま》ぐらいの土低い普通の百姓家で、あまり流行《はや》っていない獣医さんの家《うち》らしかったが、ホルマリンと生石灰の臭気の非道《ひど》いのには弱らされたよ。
 青年団員に間取りを聞いた吾輩は、ハンカチで鼻を蔽いながらイキナリ薬局に這入って行った。実は吾輩、獣医の薬局なるものを見た事がなかったのでね。ドンナ薬と道具が、ドンナ工合に並んでいるものか後学のために見ておきたかったのだ。序《ついで》にドンナ毒物が使用されたかもアラカタ見当が付くだろうと考えていた。
 実は娘さんが居ると色々聞いてみたい事が在ったんだが、際どいところでドロンを極め込んでいるもんだから何もかも盲目《めくら》探り同然だ。弥次馬探偵、弱ったよ……まったく……。
 ところが案ずるよりも生むが易いとはこの事だね。みんな虎列剌《コレラ》を怖
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