ナ名前の一つだって吾々の仕事を引っくるめた意味を含んだものはない。名前なんてドウでもよさそうなもんだが、妙なもんだね。自分の仕事を意味しない名前の学問を研究していると、石炭掘りに来て芋を掘らせられるような気がするよ。
現在当大学では吾輩の監督の下に、解剖、血清、細菌、検診、毒物、精神病、心理、詐病《さびょう》鑑定、災害検診なんて仕事を研究しているにはいるんだが……この範囲なら「法医学」と名附けられても文句はないんだが、それ位の研究じゃナカナカ責任は果されないんだ。
要するに、あらゆる科学智識を、百科全書式に応用して、法律上の諸問題を解決するっていうんだから、手ッ取早く云えば所謂《いわゆる》、名探偵の助手みたいなもんだよ。
小説なんかに出て来る西洋の名探偵は、吾々が大勢がかりで、手を分けて研究している仕事をタッタ一人で研究し、知りつくしているんだから驚くよ。ソンナ頭脳《あたま》がこの世に在り得るか、どうかという事からして問題だと思うがね。しかも、そいつを非常な機智と胆才でもって犯罪事件に応用して、的確に事件の真相を看破して行くんだから、名探偵の仕事ってものは頗《すこぶ》る痛快な仕事
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