思われましょう。
けれども、それは、ホントウに忍び込んで来たに違いないのでした。
それはいつからとも、わかりませんが、月日の経《た》つのにつれて、アヤ子の肉体が、奇蹟のように美しく、麗沢《つややか》に長《そだ》って行くのが、アリアリと私の眼に見えて来ました。ある時は花の精のようにまぶしく、又、ある時は悪魔のようになやましく……そうして私はそれを見ていると、何故かわからずに思念《おもい》が曚昧《くら》く、哀しくなって来るのでした。
「お兄さま…………」
とアヤ子が叫びながら、何の罪穢《けが》れもない瞳《め》を輝かして、私の肩へ飛び付いて来るたんびに、私の胸が今までとはまるで違った気もちでワクワクするのが、わかって来ました。そうして、その一度一度|毎《ごと》に、私の心は沈淪《ほろび》の患難《なやみ》に付《わた》されるかのように、畏懼《おそ》れ、慄《ふる》えるのでした。
けれども、そのうちにアヤ子の方も、いつとなく態度《ようす》がかわって来ました。やはり私と同じように、今までとはまるで違った…………もっともっとなつかしい、涙にうるんだ眼で私を見るようになりました。そうして、それにつれ
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