《くちづけ》をしてから海の中に投げ込みました。そのビール瓶は、この島のまわりを環《めぐ》る、潮《うしお》の流れに連れられて、ズンズンと海中《わだなか》遠く出て行って、二度とこの島に帰って来ませんでした。私たちはそれから、誰かが助けに来て下さる目標《めじるし》になるように、神様の足※[#「登/几」、第4水準2−3−19]《あしだい》の一番高い処へ、長い棒切れを樹《た》てて、いつも何かしら、青い木の葉を吊しておくようにしました。
 私たちは時々|争論《いさかい》をしました。けれどもすぐに和平《なかなおり》をして、学校ゴツコや何かをするのでした。私はよくアヤ子を生徒にして、聖書の言葉や、字の書き方を教えてやりました。そうして二人とも、聖書を、神様とも、お父様とも、お母様とも、先生とも思って、ムシメガネや、ビール瓶よりもズット大切にして、岩の穴の一番高い棚の上に上げておきました。私たちは、ホントに幸福《しあわせ》で、平安《やすらか》でした。この島は天国のようでした。

       *

 かような離れ島の中の、たった二人切りの幸福《しあわせ》の中に、恐ろしい悪魔が忍び込んで来ようと、どうして
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