何年になりましょうか。この島は年中夏のようで、クリスマスもお正月も、よくわかりませぬが、もう十年ぐらい経っているように思います。
 その時に、私たちが持っていたものは、一本のエンピツと、ナイフと、一冊のノートブックと、一個のムシメガネと、水を入れた三本のビール瓶と、小さな新約聖書《バイブル》が一冊と……それだけでした。
 けれども、私たちは幸福《しあわせ》でした。
 この小さな、緑色に繁茂《しげ》り栄えた島の中には、稀《まれ》に居る大きな蟻《あり》のほかに、私たちを憂患《なやま》す禽《とり》、獣《けもの》、昆虫《はうもの》は一匹も居ませんでした。そうして、その時、十一歳であった私と、七ツになったばかりのアヤ子と二人のために、余るほどの豊饒《ゆたか》な食物が、みちみちておりました。キュウカンチョウだの鸚鵡《おうむ》だの、絵でしか見たことのないゴクラク鳥だの、見たことも聞いたこともない華麗《はなやか》な蝶だのが居りました。おいしいヤシの実だの、パイナプルだの、バナナだの、赤と紫の大きな花だの、香気《かおり》のいい草だの、又は、大きい、小さい鳥の卵だのが、一年中、どこかにありました。鳥や魚な
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