だ》えている私たち二人の心を、窺視《うかがい》に来るかのように物怖ろしいのでした。
 こうして長い長い夜が明けますと、今度は同じように長い長い昼が来ます。そうするとこの島の中に照る太陽も、唄う鸚鵡《おうむ》も、舞う極楽鳥も、玉虫も、蛾も、ヤシも、パイナプルも、花の色も、草の芳香《かおり》も、海も、雲も、風も、虹も、みんなアヤ子の、まぶしい姿や、息苦しい肌の香《か》とゴッチャになって、グルグルグルグルと渦巻き輝やきながら、四方八方から私を包み殺そうとして、襲いかかって来るように思われるのです。その中から、私とおんなじ苦しみに囚《とら》われているアヤ子の、なやましい瞳《め》が、神様のような悲しみと悪魔のようなホホエミとを別々に籠《こ》めて、いつまでもいつまでも私を、ジイッと見つめているのです。

       *

 鉛筆が無くなりかけていますから、もうあまり長く書かれません。
 私は、これだけの虐遇《なやみ》と迫害《くるしみ》に会いながら、なおも神様の禁責《いましめ》を恐れている私たちのまごころを、この瓶に封じこめて、海に投げ込もうと思っているのです。
 明日《あした》にも悪魔の誘惑《い
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