待ち下さい。ソ……それは貴方の誤解です。私はただ品夫さんのお父さんの事だけを申しましたので……」
「……否《いや》……チットも構いません。公然と僕達の結婚に反対されても構いません」
 健策は断乎《だんこ》とした態度でこう云い切った。云い知れぬ昂奮に全身を震わせながら……。
「……たといドンナ事があろうとも、僕は品夫を殺さない決心ですから……品夫を見棄てる気は毛頭《もうとう》無いのですから、何でもハッキリ云って下さい。……実松一家は、そんな恐ろしい精神病の遺伝系統のために、その故郷で絶滅してしまっている。そうして僅《わず》かに残った一滴の血が、めぐりめぐって現在藤沢家を亡ぼすべく流れ込もうとしている。その一滴の血が……品夫だと云われるのですね」
「……………」
「藤沢家のためには、品夫を見殺しにした方が利益だと云われるのですね……貴方は……」
「……………」
「……………」
 二人は青い顔を見合わせたまま、石のように凝固してしまった。……ちょうどその時に、扉《ドア》の外で何か倒れたような音がしたので……。
 二人はハッとしながら同時に立ち上った。扉《ドア》に近い健策が大急ぎで把手《ハンド
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