ずにいましたが、貴方の御意見を聞いているうちに何もかも解ってしまいました。……貴方は実松氏の超常識的な性格から割り出して、当九郎の無罪を主張していられるようです。つまり実松氏は……品夫の父は元来、深刻な精神病的の素質を遺伝している、変態的な性格の所有者であった。だから月の光りの強い、雪の真白い山の上で、一種の幻覚錯覚に陥って、自分でも予期しない自殺同様の、非業《ひごう》の最期を遂《と》げたもの……と主張しておられるのでしょう」
「イヤ。ちょっとお待ち下さい」
と黒木が片手を揚げて制しかけた。健策の語気が、だんだん高まって来るのを怖れるかのように……。しかし健策はひるまなかった。黒木と同時に片手を揚げながら、なおも身体《からだ》を乗り出した。
「イヤ。お待ち下さい。待って下さい。貴方は御存じないのです。そうした主張で、当九郎の無罪が証明出来るものと思っていられるようですが、そうした説明ならば、僕の方が専門なのです。いいですか。……今お話のような事実を、有名なデビーヌ式の素質遺伝の原則と照し合わせると、却《かえ》って正反対の結論が生まれて来るのですよ。……美青年当九郎は表面上柔和な人間に
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