品夫が、お磯婆さんと一緒に此家《ここ》に引き取られて来るし、仮埋葬《かりまいそう》になっていた実松源次郎氏の遺骸も、正式に葬儀が行われるしで、事件は一先《ひとま》ず落着の形になったらしいのです。そうして色んな噂が立ったり消えたりしているうちに二十年の歳月《としつき》が流れて今日《こんにち》に到った訳で……いわば品夫は、そうした二十年|前《ぜん》の惨劇がこの村に生み残した、唯一の記念と云ってもいい身の上なんです」
こう云って唾を嚥《の》み込んだ健策の眉の間には、流石《さすが》に一抹の悲痛の色が流れた。
「なるほど……それでは村の人が色んな噂を立てる筈ですね」
と黒木も憂鬱にうなずいた。けれどもそのうちに健策は、又も昂奮《こうふん》して来たらしく、心持顔を赤めながら語気を強めて云った。
「しかし誰が何と云っても、僕等二人の事は養父《ちち》が決定《きめ》て行った事ですから、絶対に動かす事は出来ない訳です……今更村の者の噂だの、親類の蔭口だのを問題にしちゃ、養父《ちち》の位牌に対して相済みませんし、第一品夫自身がトテモ可哀想なものになるのです。彼女《あれ》の味方になっていた養父《ちち》もお
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