》で夢みたような事を主張するのです……しかも真剣に……」
 熱心に傾聴していた黒木は今一度、長いため息をした。やはり相手の顔をみつめたまま……。
「成る程……婦人の想像力ぐらい恐ろしいものはありませんからね……真実以上の真実ですから……」
「……まったくです……しかし、その時はちょうど僕も品夫も、新規に引き受けた病院の仕事だの、遺産の整理だの、法事だのというものがゴチャゴチャと重なり合っていて、トテモ結婚どころの沙汰じゃなかったもんですから、そんな事を深く穿鑿《せんさく》する暇も無いままに放《ほ》ったらかしておいたものですが……そうそう……それから品夫はコンナ事も附け加えて話しましたよ。何でもそれから二三日目の夕食の時でしたが、顔を赤くしながら……妾《わたし》はこのあいだ御養父《おとう》様の二七日の晩に、妾の身の上とソックリのコルシカ人の娘の話を読んで心から感心してしまった。その娘は、父親を殺したに違い無いと思っている男から婚約を申し込まれると、大喜びで直ぐに承諾をして、他からの申込みを全部断ってしまった。そうして結婚式の晩にその男を絞め殺す……という筋であったが、その中には、そうした
前へ 次へ
全53ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング