、それに関する人の噂を聞いたりすると、トテモたまらない愉快を感ずるものだと云うのです。つまり自分の罪を人知れず自白してみたい一種の心理と、犯罪者特有の冒険慾とが一所になって来るので、トテモ正しい人間の想像も及ばないスバラシイ魅力を持っているものだそうで……つまり、その犯した罪が大きければ大きい程……そうして犯人自身が知識階級であればある程、その魅力も何層倍の深さに感ぜられるものだと云うのです。……だから妾《わたし》のお父様を殺した犯人は、ツイこの頃までも、そうした大きい魅力に引かされて、この村に帰ってみたくて堪《たま》らないでいたに違い無いが、ここにタッタ一人、その犯人の顔や特徴をよく知っておられる、うちの御養父《おとう》様が生き残っておられた。……それでウッカリこの村に足を入れる事が出来ずにいたのだが、その御養父《おとう》様がお亡くなりになった今日では、モウ怖い者は一人も居ないのだから、その犯人はスッカリ安心しているにちがい無い。そうして近いうちにこの村に遣って来るに違い無い……イヤ……事によると、もうそこいらに来ていて、妾の姿をジロジロ眺めているかも知れない……と云うので、恰《まる
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