悔状《くやみじょう》は一々私が開封して眼を通したが、やはり愉快なのが混っていた。
「私は近所の爺さんから頼まれて杉山さんの霊前にこの和歌を捧げてくれという事ですから、この手紙を上げます。私は杉山という人がドンな人だか、よく知りませんが謹んでお悔みを申上げます」
といったような朗らかなのや、お悔みのつもりであろう、
「杉山先生が亡くなられても、君に忠義という事は決して忘れません」
と簡単に楷書して泣かせるのや、
「先生は私にとって実の親よりも有難い人でした。どうぞ今後も、お父さんに代って私を可愛がって下さい」
といった、いじらしい意味の長文や、
「新聞で見てビックリしました。香奠《こうでん》十円送ります」
という奇特な方や、色々であったが、一番痛快でタタキ付けられたのは敬弔の文字を印刷したカードを二銭の開封にして来た一通であった。この人は日本国中を皆殺しにするつもりで、こんなカードをフンダンに印刷して用意しているのじゃないか知らんと思って茫然となった。
九州で玄洋社葬をして頂くために、東京駅を出発したのは八月二十八日であった。
駅頭まで見送りに来た頭山満先生が、父の遺骨
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