身側に徹底的の感動を与えるためであることも無論であります。
「それでは私に死ねとおっしゃるのですね」
と云うと、相手の異性は真青になってしまうのであります。これはその鼻が本当に死にたいという切り詰まった表現をしていると同時に、あなたより他に思う人は無いという気心を裏書きしているからであります。同様に、
「あなたとならばドコマデモ……」
という月並みな文句で相手をグンニャリトロリとさせて終《しま》うのは、その秋波が五分もすかさぬ冴え加減を見せると一所に、その鼻の表現がその場合にふさわしい真実味をあらわしているからであります。
これが少々ハイカラなのになって来ると、
「あなたを恋してはじめて私の卑しいすべてが私をさいなみ初めました」
と告白するその鼻が、その謙遜と誠意とをもって自己のアラを蔽《おお》い、且つ相手の同情を動かすべく如何につつましいつらさを示しているか。
「私のようなもののためにあなたのような貴いお美しい方の生涯を傷つけるという事はあまりに残酷だと思うと、つい気が引けて……」
と恥じらいを含んだ鼻の表現が、如何に相手の気を引き動かすに充分であるか、そうしてその自尊心を
前へ
次へ
全153ページ中80ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング