――鼻の静的表現(二)

 鼻は又その恰好に依ってその持主の性格、意志、感性なぞを表明しているものとも考えられておるようであります。それかあらぬか鼻にはいろんな名称があって、その名前を聞いただけでもその感じがわかる位であります。
 尤《もっと》もこれ等の名称は芸術家や人類学者又は骨相学者なぞが各《おのおの》その立場立場に依ってそのつけ方を違えているのだそうでありますが、鼻の表現の研究材料としてはその名前と感じだけがわかればよろしいのであります。
 先ず和製では、野生的の勇気を表わす「獅子鼻」を筆頭に、意地の悪い感じを与える「鷲《わし》鼻」、お人好しと見られる「団子鼻」、無智を示す「蓮切鼻」、無能を示す「トンネル鼻」、慌《あわ》て者を表白するという「二連銃」、むずかし屋を表明する「碇《いかり》鼻」(「怒り鼻」?)、分別を見せる「鉤《かぎ》鼻」、又は物々しい「二段鼻」、安っぽい「抓《つま》み鼻」なぞいうのがあります。
 意気筋では、よくは存じませぬが、江戸前の「ツンケン型」、上方式の「京人形型」、「オキャーセ型」、「アキマヘン型」、「バッテン型」なぞいうのが、その地方地方のこう
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