駄話に落ちてしまった……なぞいう御記憶も矢張り一生に一度位はおありになる事と推測されます。
 ここで強《し》いて鼻なるものの正体に解釈を下しますといろいろな事になります。
 人間万事を実用一点張りで解釈して行こうとする人は先《ま》ず……
「鼻というものは元来不必要なものである。平面の上に穴が二つ開《あ》いているだけで結構用は足りるものである。耳朶《じだ》が音を受ける程にも役に立たない。臭を吸い寄せる目的で高まっているものならば、もっとずっと長くなって穴はその先端になければならぬ」
 というところに気付かれるでありましょう。
「これは大方鼻をかむという刺激が積り積ってこんな事になったのじゃないか」
 なぞいう解釈を下している人もあります。
「しかしそれにしては鼻の頭が丸過ぎるし、左右の根っ株もふくれ過ぎている」
 という事も同時に気付かれるであろうと考えられます。
 これに反してもっと気取った人の中《うち》にはこんな解釈を下しておられる向きもあります。
「鼻というものは万有進化の道程に於て一つの有力な条件と見られている美的方面の原理に則《のっと》って出来たものである。一つは眉毛と同様に顔
前へ 次へ
全153ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング