今一つは、この研究に一々|独逸《ドイツ》式の例証を引いていたら、たった一つの問題の上に実に千百無数の各方面の説を積み上げなければならぬ事になります。それでは第一煩に堪《た》えません。それよりも註釈をそっくりそのまま受け売りにして説明致しました方が早わかりであると信ぜられるからであります。
 前口上はこれ位に致しまして、早速《さっそく》本論に取りかかります。

     鼻の使命とは?
       ――懐疑と解釈のいろいろ

 鏡にうつる御自分の鼻を御覧になると、御満足御不満足は別問題と致しまして、鼻の恰好その物に就いて一種のぼんやりとした疑問を懐《いだ》かれた方が些《すくな》くないであろうと考えられます。些くとも一生に一度位はきっと……
 鼻ってものはどうしてこんなに高くなっているのか知らん……
 何故こんな恰好をしているのであろう……
 物を嗅いだり呼吸をしたりするほかには何の役にも立たないのか知らん……
 なぞと考えられた御経験がおありになる事と想像されます。さもなくとも誰でも一寸《ちょっと》気になるものだけに、お茶受け話しか何かにこの疑問を持ち出して、結局は矢張りお茶受程度の無
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