になるでしょうか。
怒《いか》った鼻を持った人はどんなに柔和な表情をして見せても、鼻だけはいつも顔の真中でこれを裏切って「怪《け》しからん奴だ」という感じを相手に与えるもの……又貧相な鼻の人は如何に脂切った景気のいい人相をしていても内実はいつもピイピイ風車と他人に見られるものと思い諦めている人がもしあったとしたら、その鼻は如何に呪わしいものでありましょうか。
これに反して鼻の表情なるものがもし存在するとなりましたならば、そんな人にとっては実に天来の福音として歓迎されるに違いありません。
同時に女神像のような恰好の好《い》い鼻やエジプト犬のようなとおった鼻すじを持っていて、自分の鼻はいつも大得意で鏡を覗いている時の通りの感じを他人にも与えているものと信じていた人々にとっては、この「鼻の表現」の存在は実に青天の霹靂《へきれき》とも言うべき不安と脅威とを齎《もたら》すものでなければなりませぬ。
鼻にも表情がある。
美しい鼻でも心掛けようでは醜く見える。見っともない恰好の鼻でも了簡《りょうけん》一つでは美しい感じを他人に与える。うっかり出来ないと思われるに違いありませぬ。
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