《おしろい》の濃淡や頬紅の掛け引きなんぞでせめて正面から見た感じなりと誤魔化そうと、明け暮れどれ位苦心惨憺しておられるか知れませぬ。
隆鼻術は、こんな方々のこんな心理状態が社会に鬱積して生み出した医道の副産物であります。もしこれが百発百中|※[#「米+參」、第3水準1−89−88]粉《しんこ》細工のように人間の鼻を改造し得る迄に発達致しましたならば、それこそ副産物どころでない、仁術中の仁術と推賞しても差し支えないであろうと考えられます。
動的表現能力
――鼻の動的表現(一)
これを要するに、眼や口と同様に数限りない表現が鼻にも存在するということを、確信を以て断言し得る人はあまりあるまいと考えられます。
しかし又それと同時に、鼻というものは絶対に動的表現の能力を持たぬものと断定し得る人もあまり沢山はありますまい。つまるところ、あると云えばあるような、無いと思えばないような位のところが最も常識的な考え方であろうと思われます。
ところでそれはそれでいいとして、もしこの鼻の動的表現、即ち「鼻の表情」と名付けられるものが実際に於て絶対に無いものとしたらどんな事
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