す。只のっそりぼんやりとかしこまったり、胡坐《こざ》をかいたり、寝ころんだりしております。精々奮発したところで暑い時に汗をかいたり、寒い時に赤くなったりする位の静的表現しか出来ない。たまに動的表現が出来たかと思うと、それは美味《おい》しいにおいを嗅ぎ付けてヒコ付いたのであったなぞいう次第であります。どちらにしても恐ろしく低級な、殆ど無いと云ってもいい位な表現力しか持たぬものとして、人類の大部分に諦められているようであります。
その中《うち》でもこの鼻の表現力に対する女性たちの諦め方は、特にお気の毒とも何とも申し上げようが無い位であります。
容色の美醜は特に鼻の静的表現、即ち鼻の恰好に依って大変な違いが出来て来ますので、鼻に動的の表現が無い限りどうにも誤魔化しようが無いのであります。然るに天はなかなかこの鼻を思う通りの美的条件に合わせて生み付けてくれませぬので、たった鼻一つで売れ口の遅れるような実例が方々に出来て来るのであります。このような女性は毎日鏡を見るたんびに、遺伝という学問を編み出した学者を呪ったり、自分の鼻に似た恰好の鼻を持っている肉親の方を怨んだりしておられます。又は白粉
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