穴が正面から底まで見えたり、下司《げす》張った奴の鼻の恰好が芝居の殿様のようであったりするといったような実例はザラにあります。「人は見かけに依らぬもの」という格言が鼻にも通用するものであるならば、この格言の出来た理由の一つにこんな実例も加えて決して差し支《つか》えあるまいと思われる程、左様に多いのであります。
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その人の先天的もしくは後天的の性格と鼻の恰好との間にはこれと云って取り立てる程の関係はない。
鼻の恰好から来る感じをその人の性格その他の表現と見るのは間違いと断定して大過は無い。
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こうした判断のしかたは非常な危険を伴うものである。
という事はここまで研究して参りますと一目瞭然するのであります。
鼻と諦め
――鼻の静的表現(三)
以上は人体に於ける鼻の位置、高低、恰好等から見た鼻の表現の研究でありますが、この種の表現は元来固定的|且《か》つ先天的なもので、人間の力で変化させる事は先ず出来ないものとなっております。蓮切鼻の人は死ぬまで蓮切鼻でいる。希臘《ギリシャ》型のを授かった人は睡《ねむ》っている間
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