一方不景気な抓み鼻を持っている人は、何だか顔を出しても出し栄《ばえ》がしないような気がするし、他人も目星をつけないままについ引込思案になるような事がないとも云えませぬ。
ところでこれが何しろ長い間の事でありますから、チョイチョイそんな気になっているうちには幾分性格にも差し響いて来る。つまり自分の鼻の恰好に感化を受けるという事も全く無いとは保障出来ないのであります。これは顔付でも同様で、多少共にこの傾向を持った人が存外多いものではないかと考えられます。
しかしこれは何と云っても愚かな話で、何も自分の鼻の恰好に義理を立てて余計な苦労を求める必要はあるまいと考えられます。持って生まれた根性と持って生まれた鼻の恰好とは、偶然に一致していない限り全く無関係なものであります。いくら鼻に義理を立てようとしても、本心に無い事である限り、そうそうは立て切れるものであるまいと思われます。
事実上その例証はいくらでもあります。
高利貸のような凄い鼻を持っている人でも交際《つきあ》って見ると存外無欲な人であったり、チョイとした愛嬌タップリの鼻の持主でも意想外に兇暴残忍な奴がいたりします。高徳な人の鼻の
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