歩を進めて、すべての男女の鼻が義務教育終了程度、中等学校程度、専門学校程度、学士、博士、大博士程度とそれぞれ高さが違って行く位になったら、世界の文運はどれ位進展するか知れますまい。
ところが実際から見るとこんな事例は先ず認め難いのであります。それどころか却《かえ》って正反対の現象がのべたらに上《のぼ》って来るのであります。西洋人は生れながらにして日本人よりも学者という訳ではありませぬ。ニグロの中にも印伊《インイ》人を凌《しの》ぐ学者がいるのであります。些くともこれは大勢同志を比較した統計で、ふだん出合頭《であいがしら》に鼻の高し低しを見てその人間の文化程度を測定するのは大間違いの初まりではあるまいかと考えられます。
尤も一方にこんな事実も多少はあり得ないと限らないのであります。
元来自分の鼻の恰好というものは存外に気にかかるものでありまして、一度鏡で見ておきますとどうかした時によく思い出すものであります。威勢のいい獅子鼻なぞを持っている人は、自分の鼻に対してもじっとしておられない場合が無いとも限らない。他人でも初対面の時なぞは一寸頼もしそうな鼻に思えて、ついおだてて見る気になる。
前へ
次へ
全153ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング