表現も倒退三千里――七里ケッパイの外ないのであります。

     記憶と鼻
       ――悪魔式鼻の表現(十二)

 人間に記憶というものが存在する限り、如何に古い出来事でも必ずその鼻の表現に影響を与えずには措《お》かぬ。同時に人間に鼻というものが存在する限り、その誠意の有無、虚実の程度は証明されずに済まぬ。鼻の使命はそこに在るという事は、ここまで鼻の表現を研究して来られた方が信じて疑われぬところであろう事を信じて疑いませぬ。
 然るに一般の人々はこんな事を夢にも気付きませぬ。すべての人は他人に見られさえしなければ、どんな悪い事をしてもわからぬものと考えておられるようであります。もっと端的に云えば、世間では腹の悪いものが勝《かち》だという意見の方が昔から勝を占めているようであります。
 これは至極|尤《もっと》もな話であります。
 少くとも現在の社会では心からの正直者が大抵の場合、損をしているように見えます。それと同時に現在偉くなっている人々は、大抵他人を見殺しにしたり、又は他人の精神上や物質上の損害を自分の出世の犠牲にして知らぬ顔をする事の上手な人ばかりであるように見受けられま
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