梅のにおい
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)斑《ぶち》
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一匹の斑《ぶち》猫が人間の真似をして梅の木にのぼって花を嗅いでみました。あの枝からこの枝、花から蕾といくつもいくつも嗅いでみましたが、
「ナアーンダ、人間がいいにおいだ、いいにおいだと言うから本当にして嗅いでみたら、つまらないにおいじゃないか。馬鹿馬鹿しい、帰ろう帰ろう」
と樹から降りかかりました。
「ホーホケキョ、ホーホケキョ」
「オヤ、鶯がやって来たな。おれは一度あいつをたべてみたいと思っていたが、ちょうどいい。ここに隠れてまっていてやろう」
「ホーホケキョ、ホーホケキョ、ケキョ、ケキョ、ケキョ、ケキョ、ケキョ」
と言ううちに鶯は、斑のいる梅の木のすぐそばにある梅の花のたくさん開いたほそい枝の処へ、ヒョイととまりました。
「鶯さん鶯さん」
と猫なでごえで呼びかけました。
「オヤ斑さん、今日はいいお天気ですね」
「ニャーニャー、ホントにいいお天気ですね。それにこの梅の花のにおいのいいこと。ほんとにたべたくなるようですね」
「オホホホホ、イヤな斑さんだこと。梅の花においしい
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