においがしますか」
「ええ、梅のにおいをかぐとおなかが急にすくようです。あなたはどんなにおいがするのですか」
「あたしはねえ、梅のにおいを嗅ぐと何とも言えないいい心持ちになって、歌がうたいたくなるのです。そうしてあちらこちらと躍りながら飛びまわりたくなるのです」
「ヘエ、さようですかね。そう言えばあたしも何だか踊りたくなったようです」
「まあ、おもしろいこと。一つおどってみせてちょうだいな」
「いいえ、あたしはあなたの着物のにおいを嗅いだら一緒に踊りたくなったのです、本当にあなたのにおいを嗅ぐといいこころもちになります。どうです、一緒に踊ろうじゃありませんか」
「いやですよ。あなたと踊るのはこわい」
「何故です。ちっとも怖い事はないじゃありませんか。もっとこっちへきてごらんなさい」
「イヤですよ。妾のにおいを嗅いで踊りたくなったと言うのは嘘でしょう」
「どうして」
「たべたくなったんでしょう」
 と言ううちに鶯はパッと飛げ出しました。
「しまった」
 と斑が飛びつきますと、ドタリと地べたへ落ちてしまいました。
「ホーホケキョ、ホーホケキョ」
 と鶯は隣のうちの梅の木で鳴いていました。

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