微笑
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)お河童《かっぱ》さん
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それは可愛らしい、お河童《かっぱ》さんの人形であった。丸裸体《まるはだか》のまま……どこをみつめているかわからないまま……ニッコリと笑っていた。
……時間と空間とを無視した……すべての空虚を代表した微笑であった。
……真実無上の美くしさ……私は、その美くしさが羨ましくなった。云い知れず憎々しくなった。そのスベスベした肌の光りが無性に悲しく、腹立たしく、自烈度《じれった》くなった。
その人形を壊してしまいたくなった。その微笑をメチャメチャにしたくなった。私は人形を抱き上げて、静かに首をねじって見た。するとその首は、殆んど音も立てないで、ポックリと折れた中から、竹の咽喉笛《のどぶえ》がヒョイと出て来た……人を馬鹿にしたように……。
私は面白くなった。
拳固《げんこ》を固めてポカリと頭をたたき割ったら、鋸屑《おがくず》の脳味噌がバラバラと崩れ落ちて来た。胴を掴み破ると、ボール紙の肋骨《ろっこつ》が飛び出した。その下から又、薄板の隔膜と反故紙《ほごがみ》の腸があらわれた。手
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