足をポキポキとヘシ折ったら、中味は灰色の土の肉ばかりで、骨の処《とこ》は空虚《うつろ》になっていることがわかった。
 けれども人形は死ななかった。何もかもバラバラになったまま、可愛らしくニコニコしていた。
 私はいよいよ苛立《いらだ》たしくなった。人形の破片《かけら》を残らず古新聞に包んで、グルグルと押し丸めて、庭の隅のハキダメにタタキ込んだ。……こんな下らないものを作った人形師を咀《のろ》いながら…………。
 その古新聞紙はハキダメの中で雨にたたかれて破れた。メチャメチャになった人形の手足が、ゴミクタの中に散らばった。その中から可愛らしい硝子《ガラス》の片眼だけが、高い高い青空を見詰めながら、いつまでもいつまでも微笑していた。私はずっと後になってそれを発見した。そうして何かしらドキンとさせられた。
 私は履物の踵《かかと》で、その片眼を踏みつけた。全身の重みをかけてキリキリと廻転した。
 白い太陽がキラキラと笑った。



底本:「夢野久作全集3」ちくま文庫、筑摩書房
   1992(平成4)年8月24日第1刷発行
底本の親本:「日本探偵小説全集 第十一篇 夢野久作集」改造社
   
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