なくも
エジプトの 御代を知りつゝ
神々の まもりうけつゝ
此の広き 山と河にも
おもしろく をかしき事を
何一つ 見出でぬまゝに
老い行きて 死に果てむ身か」
御涙 ハラ/\と落ち
ほのぼのと 夜は明けわたる」
折しまれ あなめづらしや
女王様《わがきみ》の 御声として
カヤ/\と 笑はせ給ふ」
わが女王《きみ》の 御閨《みねや》ぬちに
いづくより 迷ひ入りけむ
一匹の 髪切虫を
かしこくも 捕はせ給ひ
此上《こよ》もなく 興がらせつゝ
黄金《こがね》にも たとへ難かる
御髪《おんぐし》を あたへ給ひて
啄《つい》ばませ 喰《は》ませ給ひて
カヤ/\と 笑はせ給ふ」
あなをかし 髪切虫よ
おもしろの 髪切虫よ[#底本では、この「髪切虫よ」だけ1字上がっている]
いつまでも 髪切り飽かず」
あかつきの 雲の波打つ
はてしなき わが黒髪を
残りなく 切りつくさむとや
丸坊主に しつくさむとや」
埃及《エジプト》の 御代を知る身を
はばからね 髪切虫よ
汝《なれ》こそは 虫の王なれ
青光る 髪切虫よ
美《うる》はしの 髪切虫よ」
われ死なば 汝《なれ》に慣ひて
髪切の 虫と生まれて
かぎりなく 恋を重ねて
はてしなく 卵を生みて
黒雲の 天ぎるきはみ
白浪の 打ち寄るかぎり
匐ひまはり 且つ飛びかけり
闇といふ 闇に忍《しの》びて
女てふ 女の髪《かみ》を
こと/″\く 喰《たう》べつくして
青空の たなびくところ
黒つちの くゞまるところ
人間の さまよふきはみ
口づけの 結ぼほるかぎり
美しき 坊主あたまを
永久永遠《と
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