ッ」と泣き出す……トタンに来島の血相が又も一変して真青になった。
「……何ですか貴方は……芸妓《げいしゃ》なんぞドウでもいいたあ何です」
「……バカア……好色漢《すけべえ》……そんな事を云うたて雛妓《おしゃく》は惚れんぞ……」
「……惚れようが惚れまいがこっちの勝手だ。フザケやがって……芸妓《げいしゃ》だって同等の人間じゃねえか。好色漢《すけべえ》がドウしたんだ……手前《てめえ》等あ役人の癖に……」
と云いさしたので吾輩は……ハッ……としたが間に合わなかった。二三人の警官と有志らしい男が一人か二人、素早く立上って来島と睨み合った。しかし来島は眉一つ動かさなかった。心持ち笑い顔を冴え返らしただけであった。
「……何だ……貴様は社会主義者か……」
「……篦棒《べらぼう》めえ人道主義者だ……このまんま帰れあ死体遺棄罪じゃあねえか。不人情もいい加減にするがいい……手前《てめえ》等あタッタ今までその芸妓《げいしゃ》を……」
「黙れ黙れッ。貴様等の知った事じゃない。吾々が命令するのだ。帰れと云ったら帰れッ……」
「……ヘン……帰らないよ。海員の義務って奴が在るんだ。芸妓《げいしゃ》だろうが何だろ
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