だ仕事があるんです」
「……ナンダ……何だ貴様は……水夫か……」
「この船の運転士です。……船の修繕はもうスッカリ出来上っているんですから、済みませんがモウ暫く落付いていて下さい。これから屍体の捜索にかかろうというところですからね」
「……探してわかるのか……」
「……わからなくたって仕方がありません。行方不明の屍体を打っちゃらかして、日の暮れないうちに帰ったら、貴方がたの責任問題になるんじゃないですか。……モウ一度探しに来るったって、この広ッパじゃ見当が付きませんよ」
と詰め寄ったが、裁判所や、警察連中は、何を憤《おこ》っているのか、白い眼をして吾輩と来島の顔を見比べているばかりであった。すると又その中《うち》に大勢の背後《うしろ》の方で、
「……アア寒い寒い……」
と大きな声を出しながら、四|合瓶《ごうびん》の喇叭《ラッパ》を吹いていた一人が、ヒョロヒョロと前に出て来た。トロンとした眼を据えて、
「……何だ何だ。わからないのは芸妓《げいしゃ》だけじゃないか。芸妓なんぞドウでもいい……」
とウッカリ口を辷らしたから堪《た》まらない。隅ッ子の方に固まっていた雛妓《おしゃく》が「ワ
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