は一も二もなくこの若造の命令に従って海に飛込んだ。イザとなると覚悟のいい奴には敵《かな》わないね。
ところが、それから引続いた来島の働らき振りには吾輩イヨイヨ舌を捲かされたもんだよ。溺れている人間なんか見向きもしない。一生懸命で、上からブラ下げた綱に縋《すが》りながら、船の横っ腹に取付いて、穴の周囲にポンポンポンと釘を打ち並べると、八番ぐらいの銅線を縦横十文字《じゅうおうむじん》に引っかけまわした。その上から帆布《キャンバス》を当てがって、片っ方から順々に大釘で止めて行く……最後に残った一尺四方ばかりの穴から猛烈に走り込む水を、針金に押し当てがった帆布《キャンバス》で巧みにアシライながら遮り止めてしまった。その上からモウ二枚|帆布《キャンバス》を当てがって、周囲《まわり》をピッシリ釘付けにして、その上からモウ一つ、流れていた櫂《オール》を三本並べながら、鎹釘《かすがい》で頑丈にタタキ付けてしまった。どこで研究したものか知らないが、百人ばかりの生命《いのち》の親様だ。思わず頭が下がったよ。
その吾々が仕事をしている二三|間《げん》向うには、端舟《ボート》の釣綱《つりつな》が二本、中
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