叫びが起って、一人の仲居《なかい》が引っくり返った。その拍子に近まわりの者が、ちょっとザワ付いたように見えたが、又もピッタリと静かになった。……友吉の気魄に呑まれた……とでも形容しようか……。相手が恐ろしい爆弾を持っているので、蛇に魅入《みい》られた蛙《かえる》みたような心理状態に陥っていたものかも知れない。
友吉おやじの顔色は、その悲鳴と一所に、益々冷然と冴え返って来た。
「……アンタ方は、ええ気色な人達だ。罪人を捕まえて生命《いのち》がけの仕事をさせながら、芸者を揚げて酒を飲んで、高見《たかみ》の見物をしているなんて……お役人が聞いて呆れる。私は轟先生の御命令じゃから不承不承にここまで来るには来てみたが、モウモウ堪忍袋の緒が切れた。持って生れたカンシャク玉が承知せん。
……アンタ方は日本の役人の面《つら》よごしだ。……ええかね。……これはアンタ方に絞られたドン仲間の恩返しだよ。コイツを喰らってクタバッてしまえ……」
と云ううちに爆弾の導火線を悠々と巻線香にクッ付けて、タッタ一吹きフッと吹くとシューシューいう奴を片手に、
「へへへへ……」
と笑いながら船首の吃水線《きっすいせ
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