聞いておくんなさい。私はこの爆弾《ハッパ》を投げて、生命《いのち》がけの芸当をやっつける前に、ちょっと演説の真似方を遣らしてもらいます。白状しますが私は今から十四年ほど前に、柳河で嬶《かかあ》と、嬶の間男《まおとこ》をブチ斬ってズラカッタ林友吉というお尋ね者です。……それから後《のち》五年ばかりというものこのドン商売に紛れ込みまして、海の上を逃げまわっておりましたが、その間に警察署とか裁判所とか、津々浦々の有志とか、お金持ちとかいう人達が、吾々に生命《いのち》がけの仕事をさせながら、どんなに美味《うま》い汁を吸うて御座るかという証拠をピンからキリまで見てまわりました。爆弾《ハッパ》の隠匿《かく》し処《どこ》などもアラカタ残らず、探り出してしまったものです。
……それが恐ろしかったので御座んしょう。警察と裁判所と、有志の人達が棒組んで、この私を袋ダタキにして絶影島の裏海岸に捨てて下さった御恩バッカリは今でも忘れておりません。そう云うたら思い当んなさる人が皆さんの中にも一人や二人は御座る筈ですが。へへへへへへへへへへ……」
この笑い声を聞くと同時に、船の中で「キャ――ッ」という弱々しい
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