ん》下に投げ付けた。……トタンに轟然たる振動と、芸者連中の悲鳴が耳も潰れるほど空気を劈《つんざ》いた。それを見上げた友吉おやじは又も、
「へへへへへへへ……」
 と笑いながら、今一つの爆弾を揚板《あげいた》の下から取出して導火線に火を点《つ》けた。それを頭の上に差し上げて、
「……コレ外道サレッ……」
 と大喝しながら投げ出したと思ったが、その時遅く彼《か》の時早く、シューシューと火を噴《ふ》く黒い爆弾《たま》がおやじの手から三尺ばかりも離れたと見るうちに、眼も眩《くら》むような黄色い閃光がサッと流れた。同時に灰色の煙がムックリと小舟の全体を引っ包んだ中から、友吉おやじの手か、足か、顔か、それとも舷《ふなべり》か、板子か、何だかわからない黒いものが八方に飛び散ってポチャンポチャンと海へ落ちた。そうしてその煙が消え失せた時には、半分|水船《みずぶね》になった血まみれの小舟が、肉片のヘバリ付いた艫櫓《ともろ》を引きずったまま、のた打ちまわる波紋の中に漂っていた。

 不思議な事に吾輩は、その間じゅう何をしていたか全く記憶していない。危険《あぶな》いとも、恐ろしいとも何とも感じないまま船橋《
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