がら活弁マガイの潰れ声で説明するヒョーキン者もいる。中には芸者を舷《ふなばた》へ押し付けてキャアキャア云わしている者もいた。
その鼻の先の海面へ、友吉おやじの禿頭《はげあたま》が、忰に艫櫓《ともろ》を押させながら、悠々と廻わって来た。見ると赤ん坊の頭ぐらいの爆弾と、火を点《つ》けた巻線香を両手に持って、船橋に立っている吾輩の顔を見い見い、何かしら意味ありげにニヤニヤ笑っている。忰の方は向うむきになっていたので良くわからなかったが、吾輩が見下しているうちに二度ばかり袖口で顔を拭いた。泣いているようにも見えたが、多分、潮飛沫《しおしぶき》でもかかったんだろうと思って、気にも止めずにいたもんだ。
……しかし……そのせいでもあるまいが、吾輩はこの時にヤット友吉おやじの態度を、おかしいと思い初めたものだ。
第一……前にも云った通り吾輩はドンの実地作業を生れて初めて見るのだから、詳しい手順はわからなかったが、それでも友吉おやじの持っている爆弾が、嘗《かつ》て実見した押収品のドンよりもズット大きいように感じられた。……のみならず、まだ魚群も見えないのに巻線香に火を点《つ》けているのが、腑に落ち
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