ません。一度でもインチキを遣った奴は、永い日の目を見た例《ためし》がありませんからね。
 ……そんな仲買連中は若松や福岡にもポツリポツリ居るには居ります。しかしそんな爆薬のホントウに集まる根城というのが、四国の土佐海岸だという事は、いかな轟《とどろき》先生でも御存じなかったでしょう。今の貴族院の議員になって御座る赤沢という華族様の生れ故郷と申上げたら、おわかりになりましょうが、昔から爆弾《ドン》村と云われた処で、今の赤沢様が、その総元締をして御座るのです。その又、総元締の配下になって御座る大元締というのが、やはり日本でも指折りの豪《えら》い人達ばっかりですが、その人達の手から爆弾《ドン》村へ集まって来た爆薬が、チッポケな帆舟《ほまえ》に乗って宇和島をまわって、周防灘から関門海峡をノホホンで通り抜けます。昨日《きのう》の朝の西南風《にしばえ》なら一先ず六連沖《むつれおき》へ出て、日本海にマギリ込みましょう。それから今朝《けさ》の北東風《きたこち》に片尻をかけて、ちょうど今時分、釜山沖へかかる順序ですが……ホーラ御覧なさい。あの馬山《ばさん》通いの背後《うしろ》から一艘、二艘……そのアトか
前へ 次へ
全113ページ中52ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング