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……爆弾《ハッパ》の出先は何といっても九州の炭坑《やま》が第一です。一本十銭か十五銭ぐらいで坑夫に売るのですが、その本数を事務所で誤間化《ごまか》して一本三十銭から五十銭で売り出す……ズット以前の取引ですと手頃の柳行李《やなぎこうり》に一パイ詰めた奴を、どこかの横路次で、顔のわからない夕方に出会った鳥打帽子のインバネス同志が右から左に、無言《だんまり》で現金《げんナマ》と引き換える……だから揚げられても相手の顔は判然《わか》らん判然らんで突張り通したものですが、今ではソンナ苦労はしません。電車や汽車の中で大ビラに鞄《かばん》を交換するのです。……売る奴は大抵炭坑関係かその地方の人間で、買う奴は専門の仲買いか、各地の網元の手先です。そんな連中の鞄の持ち方は、仲間に這入っていると直ぐにわかりますからね。以心伝心で、傍に寄って来て鞄を並べておいてから、平気な顔で煙草の火を借りる。一所《いっしょ》に食堂に行って話をきめる。途中の廊下で金を渡して、駅に着いてから相手の鞄を片手に……左様《さよう》なら……と来るのが紋切型《もんきりがた》です。三等車で遣ってもおなじ事ですが、決して間違いはあり
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