死活問題を背負って立つだけの器量と、覚悟を持った奴でなければならない上に、ドンの背景となっている連中が又、ドレ位の大物なのか見当が付かないのだから、とりあえず佐倉宗五郎以上の鉄石心《てっせきしん》が必要だ。もちろん組合の費用は全部、費消《つか》っても構わない覚悟はきめていた訳だがそれでも多寡《たか》は知れている。それを承知で活躍する人間といったら、当然、吾輩以上の道楽|気《け》が無くちゃならんだろう……ハテ……そんな素晴らしい変り者が、この世界に居るか知らんと、眼を皿のようにして見廻わしているところへ、天なる哉《かな》、命なる哉。思いもかけない風来坊が吾輩の懐中《ふところ》へ転がり込んで来る段取りになった。
 ……ところでドウダイもう一パイ……相手をしてくれんと吾輩が飲めん。飲まんと舌が縺《もつ》れるというアル中患者だから止むを得んだろう……取調べの一手《ひとて》にソンナのが在りやせんか……アッハッハッ……。
 ナニ。この三杯酢かい。こいつは大丈夫だよ。林《りん》青年の手料理だが、新鮮無類の「北枕」……一名ナメラという一番スゴイ鰒《ふぐ》の赤肝《あかぎも》だ。御覧の通り雁皮《がんぴ》み
前へ 次へ
全113ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング