らいいでしょう。朝鮮沿海に魚が居なくなったら、露領へでも南洋にでも進出したらいいじゃないですか」
 と漁業通を通り越したような無茶を云い出す。ドウセ無責任と無智をサラケ出した逃げ口上だがね。そこで吾輩が躍起《やっき》となって、
「それでも銃砲火薬類の取締上、由々《ゆゆ》しき問題ではないか」
 と逆襲すると、
「それは内地の司法当局の仕事で吾々に責任はありません」
 と逃げる。実に腸《はらわた》が煮えくり返るようだが、何を云うにもソウいう相手にお願いしなければ取締りが出来ないのだから止むを得ない。情なく情なく頭を下げて、
「とにかくソンナ事情《わけ》ですから、折角定着しかけた五十万の南鮮漁民を助けると思って、何分の御声援を……」
 と頼み入ると、彼等は冷然たるもので、
「それはまあ、総督府の命令なら遣って見ましょうが、何しろ吾々は陸上の仕事だけでも手が足りないのですからね」
 といったような棄科白《すてぜりふ》でサッサと引上げてしまう。怪しからんといったってコレ位、怪しからん話はない。無念……残念……と思いながら彼奴《きゃつ》等の退場する背後《うしろ》姿を、壇上から睨み付けた事が何度あっ
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