いている事が、最初から吾輩の頭にピインと来たもんだ。これは演壇に慣れた人間に特有の直感だがね……のみならず中には反抗的な態度や、嘲笑的な語気でもって質問を浴びせて来る奴が居る。しかもその質問というのが十人が十人|紋切型《もんきりがた》だ。
「一体、爆弾漁業というものは違法なものでしょうか。……巾着網《きんちゃくあみ》よりも底曳《そこひき》網の方が有利だ……底曳網よりも爆弾漁業の方が多量の収穫を挙げる……というだけの話で、要するに比較的収益が多いというだけのものじゃないですか。……だからこれを犯罪とせずに正当の漁業として認可したら却《かえ》って国益になりはしまいか。これを禁止するのは炭坑夫にダイナマイトを使うな……というのと、おなじ意味になるのじゃないですか」
 と云うのだ。……どうも法律屋の議論というものは吾輩に苦手なんでね。吾々みたいな粗笨《あら》っぽい頭では、どこに虚構《おち》が在るか見当が附かないんだ。そこで止むを得ず受太刀《うけだち》にまわって、南鮮沿海の漁民五十万の死活に関する所以《ゆえん》を懇々と説明すると、
「それならばその普通漁民も、ほかの方法で鯖を獲《と》る方針にした
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