庵漬《たくあんづけ》の肉を抉《えぐ》って詰め込んだり、飯櫃《めしびつ》の底を二重にしていたりする。そのほか、狭い舟の中でアラユル巧妙な細工をしている上に、万一あぶないとなれば鼻の先で手を洗う振りをしながらソッと水の中に落し込む。その大胆巧妙さといったら実に舌を捲くばかりで、天勝《てんかつ》の手品以上の手練を持っているんだからトテモ生《なま》やさしい事で捕まるものでない。何しろ彼奴《きゃつ》等は対州鰤《たいしゅうぶり》時代に手厳しい体験を潜って来ているのだからね。……そこで吾輩はモウ一度、引返して、各道の判検事や警察官に、爆弾船《ドンぶね》の検挙、裁判方法を講演してまわるという狼狽のし方だ。泥棒を見て縄を綯《な》うのじゃない。追っかけながら藁《わら》を打つんだから、およそ醜態といってもコレ位の醜態はなかったね。
ところがここで又一つ……一番最後に驚ろかされたのは、吾輩のそうした講演を聞きに来ている警察官や、判検事連中の態度だ。先生方がお役目半分に、渋々《しぶしぶ》聞きに来ている態度はまあいいとして、その大部分が本当に気乗りがしていないばかりじゃない。何となく吾輩の演説を冷笑的な気分で聞
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