邏船《じゅんらせん》にでも見付かったら面倒だ。
 それあ危険な事といったら日本一だろう。その導火線を切り損ねて、手足や頭を飛ばした奴が又、何百何千居るか知れないんだが、そんなのは公々然と治療も出来なければ葬式も出せない。十中八九は水葬礼だが、これとても惜しい生命《いのち》じゃないらしい。
 論より証拠……春鯖から秋鯖の時季にかけて、南朝鮮の津々浦々をまわって見たまえ。到る処に白首《しらくび》の店が、押すな押すなで軒を並べて、弦歌《げんか》の声、湧くが如しだ。男も女も、老爺《じじい》も若造《わかぞう》も、手拍子を揃えて歌っているんだ。
「百円|紙幣《さつ》がア  浮いて来たア
 百円|紙幣《さつ》がア  浮いて来たア
 ドオンと一発  掴み取りイ
 浮いたア浮いたア  エッサッサア

 浮いたア浮いたア  エッサッサア
 お前が抱かれて くれるならア
 片手や片足   何のそのオー
 首でも胴でも  スットコトン
 明日《あす》の生命《いのち》が  スットコトン
 スットコスットコスットコトン

 浮いたア浮いたア  エッサッサア
 百円|紙幣《さつ》がア  浮いて来たア……」
 と来る
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