に近付ける。背後《うしろ》を振り返って、
「ソロソロ漕げ……ソロソロ……ソロソロ……」
と呼吸を計《はか》っているうちに、鯖の群れ工合を見て導火線《くちび》の切口と、線香の火をクッ付けて……フッ……と吹く。……シュッシュッと……来た奴をモウ一度、見計らって一気に投げる。はるかの水面に落ちて泡を引きながらグングン沈む。水面下に大渦を巻いている鯖の大群の中心に来たと思う頃、ビシイインという震動が船に来て、波の間から電光形の潮飛沫《しおしぶき》が迸《ほとばし》る。……ソレッ……というので漕ぎ付けるとサア浮くわ浮くわ。何しろ何十万ともわからない魚群の中心で破裂するんだからタマラない。五六間四方ぐらいは背骨が切れる。臓腑が吹き出す。十四五間四方ぐらいは急激|脳震盪《のうしんとう》を起して引っくり返る。その外側の二十間四方ぐらいの奴は眼をまわして、あとからあとから海面が真白になる程浮き上る。その中を漕ぎまわる。掬《すく》う。漕ぐ。掬う。瞬くうちに船一パイになったら、残余《あと》はソレキリ打っちゃらかしだ。勿体《もったい》ないが惜しい事はない。タカダカ三円か五円ソコラの一発だからね。マゴマゴして巡
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