遥かにめぐる赤間関」と来る。そこで眼ざす鯖の群れが青海原に見えて来ると、一人は艫《とも》にまわって潮銹《しおさび》の付いた一挺櫓を押す。一人は手製の爆弾と巻線香を持って舳先《へさき》に立ち上るのだ。このバッテリーの呼吸がうまく合わないと、生命《いのち》がけのファインプレイが出来ないのだ。
 手製の爆弾というのは何でもない。炭坑夫が使うダイナマイト……俗にハッパという奴だ。ビンツケみたいにネバネバした奴を二三本握り固めて、麻糸でギリギリギリと巻き立てて手鞠《てまり》ぐらいの大きさになったら、それで出来上りだ。ここまでは誰でも出来るが、そいつを左手に持ちながら立ち上って、波の下に渦巻く魚群を見い見い導火線《くちび》を切る。この導火線《くちび》の寸法なるものが又、彼奴《きゃつ》等の永年の熟練から来ているので、所謂、教化別伝の秘術という奴だろう。魚群の巨大《おおき》さや深さによって咄嗟《とっさ》の間に見計《みはか》らいを付けるのだからナカナカ難かしい。……その導火線《くちび》を差込んだ爆薬を右手に持ち換えて……左利きの奴も時々居るそうだが……片手に火を付けた巻線香を持ちながら、両方の切り口を唇
前へ 次へ
全113ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング