赤身を露《だ》した奴がズラリと並んで飛ぶように売れて行ったものだが、これは春先から対州《たいしゅう》の沿岸を洗い初める暖流に乗って来た鰤の大群が、沿岸一面に盛り上る程、押合いヘシ合いしたために出来たコスリ傷だ。いわば対州鰤の一つの特徴になっていたくらい盛んなものだった。
 ところが、それほど盛大を極めていた鰤の周遊が、爆弾漁業の進出以来、五六年の中《うち》に絶滅してしまった。勿論、対州の官憲が、在住漁民と協力して極力取締を励行したものだが、何をいうにも相手が爆弾を持っている連中だから厄介だ。間誤間誤《まごまご》すると鰤の代りに、こっちの胴体が飛ばされてしまう。殉職した警官や、藻屑《もくず》になった漁民《りょうみん》が何人あるかわからない……といった状態で、アレヨアレヨといううちに、対州鰤をアトカタもなくタタキ付けた連中が、今度は鋒先を転じて南鮮沿海の鯖を逐《お》いまわし始めた。
 彼奴《きゃつ》等が乗っている船は、どれもこれも申合わせたように一丈かそこらの木《こ》ッ葉船《ぱぶね》だ。一挺の櫓と一枚か二枚の継《つ》ぎ矧《は》ぎ帆《ほ》で、自由自在に三十六|灘《なだ》を突破しながら、「絶海
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