んだ。どうだい……コイツが止《や》められるかどうか考えてみたまえ。
こうして財布の底までハタイてしまうと、明日《あす》は又「一葉の扁舟《へんしゅう》、万里の風」だ。「海上の明月、潮《うしお》と共に生ず」だ。彼等の鴨緑江節《おうりょっこうぶし》を聞き給え……。
「朝鮮とオ――
内地ざかいのアノ日本海イ――
揚げたア――片帆がア――アノよけれエ――ど――もオ――。ヨイショ……
月は涯《は》てし――も――ヨッコラ波枕ヨオ――いつか又ア――女郎衆のオ――膝枕ア――」
と来るんだから遣り切れないだろう。海国男児の真骨頂だね。
そのうちに又、ドオンと来る。五千、一万の鯖が船一パイに盛り上る。コイツを発動機船の沖買いが一|尾《ぴき》二三銭か四五銭ぐらいの現金《ナマ》で引取って、持って来る処が下関の彦島《ひこしま》か六連島《むつれ》あたりだ。そこで一|尾《ぴき》七八銭当りで上陸して、汽車に乗って大阪へ着くとドンナに安くても十四五銭以下では泳がない。君等は二十銭以下の大鯖を喰った事があるかい。無いだろう。どの位儲かるかは、この一事を以て推して知るべしだよ。
ところでサア……こうなると所謂
前へ
次へ
全113ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング